素天堂のウィーン旅行 2003 その4

6/14

フリー最終日。
朝からKHMはないなぁ(行くつもりはあった)。と言うことで、午前中はベルヴェデーレ宮殿へ行くことにした。


化粧直しのオペラ座(看板はトヨタ)

早めに出てオペラ座周辺の古本屋を探してみようと思う。
リンクとの分岐点で降車。オペラ座側に渡って、直ぐに大きな古本屋があったが、土曜日は休み、残念。

名残惜しげにウィンドウを覗いていると、また、おかしな人物が写真を撮ってくれと話しかけてきた。
物陰まで引っ張って行かれて写真を撮っていると、またもや、「パスポート見せろ」の声が。またかよ。
「オーケー、ユア・ポリスステーション」というとまた「ノープロブレム」だ。
スタスタ歩き去る3人組。
どこにいたのか、いくら辺りを見回しても隠れるような場所はない。多分表通りから後をつけてきたんだろうなぁ。

いつまでウロウロしていても仕方ないので、分岐の停留所からベルヴェデーレ方面へ行く市電に乗る。
停留所前にはマクドナルドが開いている。子供連れが出てくる。

 

ベルヴェデーレ
ガイドブックには9時から開くと書いてあったのだが、サマータイムなのか10時開館に変更になっていた。
良い機会なので庭園をゆっくり散策する。バロック最盛期の建築らしいが、庭園は割合シンプル。
シェーンブルンもそうだが、敷地の高低をうまく使って見晴らしを生み出しているのは素晴らしい。
上宮の正面奥には植物園があるそうだがパス。
玄関前の大池に宮殿正面が映りこんで見事な効果を出している。ここでもジョギング多し。
グダグダと、景色を眺めているうちやっと10時に。

多くない待ち人がちょっと並んで、すぐに中へ。
取っつきはビーダーマイヤーの肖像画家の回顧展。
いやぁ、つまらない、ほんとにつまらない。
茶色い画面の羅列を通りすぎて2階へ上がる。 シーレの小特集。「死と乙女」と初対面。
クリムト「接吻」はもちろんだが、セガンティーニ「嬰児殺し」ベックリン「ナイアード」などなど、ここでも、バロック様式の入れ物に所狭しと展示される19世紀絵画。
ロマン派からゼツェッションまで、これでもかという高圧感を感じる。
下宮まで庭園を降りることで少し気持ちを落ち着かせることができる。下宮は上宮やKHMの物々しさから比べるとなんとなくやさしい空間。大きさのせいかもしれないが。

ウィットコウアーの大著「数奇な芸術家たち」で知っていたメッサーシュミットの奇怪な彫像コレクションがバロック展示場に点在する。
バロックの時代にいたとは信じられない近代的な作品群。
廃墟の画家ロベール・ドマシーも1点。建築絵画に若干面白いものがあった。



中世絵画の別館へよく出来た小庭園を抜けてゆく。
正装の人たちがバロック館の出口付近のホールに屯している。維持会員の会合でもあるのかもしれない。

中世美術展示場の建築は更に小さい。
その展示物の落差を一回表に出ることで和らげる効果はあるかもしれない。



オーストリア各地から集められた中世の祭壇画や聖像彫刻が、またもや強烈にのしかかってくるような展示。
とはいえ、怖いわけじゃない。ほとんどの聖者、聖女の像がやさしくほほえんでいる。

これだけの作品を、多分日本で見ることは出来ないだろうし、出来たとしても手を触れられるほど間近に、その体温が感じられる機会はもうないかもしれない。
本当に長い時間、ただの西洋かぶれには荷が重い、これらの聖画像の存在感を、ほとんど独り占めしていた。
圧巻はレリーフによる立体構成の三幅対の祭壇画。
勿論それだけではないが、あれだけ焼き付けるほど見てきたはずなのに、2週間たった今、自分の記憶の中にはその片鱗すら残っていない……。
ゆっくりと表へ出る。

先ほどのビュッフェパーティーが終わった後らしく、ピンクのドレスの女の子が母親に連れられてドアを入っていった。
会場の脇に食べ残しのキャビアの乗ったカナッペがトレイに。突然腹が空いてきたが、まさかそれをつまむわけにも行かない。
急ぎ足でバロック館を抜けてベルヴェデーレ宮の下の出口へ。

そこは市電の通りだが見回すと、隣り合わせでカフェの看板がある。
今日入らなければもう機会はないし、腹は減ってるしで、フラフラとその前へ。
覗いてみると時間がずれたせいか、この場所がリンクの外のせいか適度にすいている。何組か外国人のグループがビールを飲んだり、料理を食べたり している。

ゆっくり座って昼を過ごすのは初めて。
メニューが印刷なので判読できるし。ほっとしてバイツェン・ビールの1リットルジョッキを頼み、野菜が欲しかったのでシェフサラダを注文。
生ビールがうまい。
ちょっと向こうの席で商売不熱心のウェイトレスが、常連客とダベリつつくつろいでいるのを眺めていると、アメリカ人らしいグループが入ってきた。
ほかにまとまった席がないのでそのグループがウロウロしていたら、話し込んでいた常連が黙って席を譲ってあげていた。あ、えらい。

で、シェフサラダが来た。おれは青虫かと思うくらい大量のサラダ。
呆気にとられながらサラダと取っ組み合っているところへ、ウェイターが来て「ランチはどうする」と聞いてきた。
サラダを手で示しもう一杯という意思表示をしたつもり。ウェイターは笑って席を離れた。
だって、隣の席のアメリカ人がとってるウィンナシュニッツェル、半端な大きさじゃないよ。
結局ピルスナーの500mlを再注文して、それで勘弁して貰う。
久し振りにくつろいで勘定になってメニュー通りに払おうとすると、ウェイターがえらく安いことをいう。
ランチタイムはビール半額だった。大ラッキー。浮き浮きと店を出る。
ここでビールのせいでなく、最後に見た中世作品の強烈な印象を引きずってしまい、KHMに戻る気が完全に無くなってしまった。

何となく、リンクに近づくような方向に歩き始めた筈だった。
地図も見ないで適当に歩いていたら、とうとうどこを歩いているのか見当がつかなくなってしまった。
途中掘り返している工事現場でウィーンの土を見る。ほらやっぱり白い。



放送局、学校、教会。
土曜日の人気のない街を歩いていると、やっぱり不安になってくる。
そのうちに駅があったのでオペラ座付近まで地下鉄に乗る。
今も地図で確認しているのだが、どうしてもどこをどう歩き、どの駅からどの駅まで乗ったのかわからない。
オペラ座まえの地下パサージュで、トイレをつかい買い物をしたのだが。昼酒の酔いのせいだけではない奇妙な眩暈感が、最後の日で現れ たのだろうか。



リンク沿いを歩いて、朝市電から見つけた由緒ありげな古書店を目指すが、残念、やっぱり土曜休みだった。
ムゼウムプラッツまで来たが、やっぱりKHMにはいる余力はなかった。
市電でビョルゼまで行き、4時前にホテル帰着。
グダグダして就寝。4日間の晴天を埋め合わせるかのように深夜大雨、落雷。


6/15

今日で帰国。6時前起床。
涼しいが、何かを羽織るまでもない。
日曜朝はこちらでもアニメ三昧。日本アニメの「アリス」ディズニイの「ドナルド・ダック」ウォルター・ラング「ウッディー・ウッドペッカー」etc。
おじさん大喜び。
早めに食事すませて後かたづけ。

8時15分頃早めに下に降りたら、ツアコンの方がもう来ていた。
チェックアウト。いっさいの追加料金なし。ビールとトマトの冷やし代もなし。
今朝も思わしくない天気だが、空港までは送ってもらえるので心配なし。
車中で、2回パスポート詐欺に遭遇したことを話してあきれられる。2回ともあんまりへなちょこな手合いなので「練習だったん じゃない?」と言われてしまった。
発車したとたん雨降りだして、ワイパーが追いつかないくらいのけっこうな降り。

図録ばかりが大荷物になってしまった帰りの荷物は現地のバイトが運んでくれるし、航空チケットはコンダクターの人がやってくれたので自分はゲートを通るだけ。
ウィーンからは特に何もなかったのだが、フランクフルトで某社の機にトラブル。
搭乗時間がドンドン遅れ結局、空港内で昼食。しかも機の搭乗口が変更になって結構ドタバタがあったが、何とか1時間遅れで出発。
笑ったのはどう見てもヨーロッパ人のおじさんが、ゲート変更になってからどうして良いか分からず、自分の後について回ってたこと。

やっと着席。
帰りの席は隣をロシア人の大男二人連れ。
しかも、そのおじさんも気を遣っているのが分かるので文句も言えない。食事のときなんかかわいそうだったよ。
今回は窓際だったので昼間は機外を見られたけれど、天候悪く結局ずっと雲ばっかり。
夕方になってブラインドをおろすことになったが、どうも1度も日は落ちなかったようだ。成層圏ってそうなのか?

往路では見もしなかった映画を、3本とも見てしまった。
一本目は、デ・ニーロとビリー・クリスタルの奇妙な精神分析もの「アナライズ・ミー」。
1番面白かったのは、英語は全然分からなくても「10日間でいい男をふる方法」だった。演出さえよければ台詞なんてニュアンスだけで十分というのがよー く分かった。
主人公の女優がゴルディー・ホーンの若い時に似ていて、結構好み。
お約束のセレブ雑誌(「コスモポリタン」がモデルのようだ)の内幕あれこれも結構面白かった。
あとは、エディ・マーフィーの、エスピオナージュもの「アイ・スパイ」だった。本人より、情報局の若いエージェントが妙に弱気 で面白かったなぁ。

成田には遅れのままほぼ時間通り9時30分着。
税関前で手荷物を引き取り、心配してた税関もすんなりOK。
機内の朝飯が胃にもたれて胸焼け。
電車の乗り換えが面倒なので帰りもリムジンバス。
11時前には無事帰宅。片づけもせず布団にぶっ倒れる。

改めて読み返してみると、結局時間と体力のなさで見ずに終わってしまったものが数知れないことに気づかされる。
勿論、目的であった眷恋のパルミジャニーノ様に二度もお目通りできたのだから、これからの一生なんの不満もないはずなのだが……。

でもなぁ、今度の旅行で一番うれしかったのは、周囲に1冊の本もなくダブルのベッドで5日間ゆっくり寝られたことだったかもしれない。

めでたしめでたし。




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