素天堂のウィーン旅行 2003 その1

6/10

朝起きる。久し振りだった、起きた瞬間青ざめるという経験は。
緊張感が無いとはかねがね云われているのだが、自分でも悲しいくらい実感した。
朝7時50分には成田のカウンターに来いというのに、目が覚めたのが 7時10分!!
枕元の緊急連絡先に取り敢えず電話。
成田現地9時前に着けば何とかなるという確認を取って、着替えもそこそこに用意しておいた(前の晩出来ることやっといて本当によかった)着替えと一件書類をひっつかんで飛び出す。
表通りでタクシーを捕まえ箱崎まで。

7時50分のバスに乗れて何とか9時前に成田到着。途中、余裕をかまして「ご町内のミナさん」に登場する煙突を探す。多分あれだと思うソレをみつけた。全く海外初心者のやることじゃない。
多少引きつり気味の笑顔のお姉さんに連れて行かれて、ルフトハンザのブースでチケットを受け取る。
「ここまでがご案内の限界です」といわれて内心不安のまま出国手続きへ。ポケットの小銭と時計をトレイにのせたりして。
団体客が少ないせいかほとんど待たずに初めてのパスポートチェックが終わる。
走りながら聴かされた搭乗口がうろ覚えで、ガラス越しに外国機を堪能しながらルフトハンザ機を探す。こんな時乗物好きでよかったと思う。
搭乗30分前には待合室に。
順調に運びすぎて待合いの椅子に掛けながら、待たせやがってなどと一丁前にブツブツ。遅れてきたくせに。

ボーイング747は大きいからか、エコノミーの席がメチャ狭。「新幹線より狭いなぁ」とおもわずつぶやいたら、周りを囲まれた団体のツアー客に聴かれたらしい。海外旅行初めてがバレバレ。
機内サービスはエコノミーとはいえビール・ワインを初めとして飲み放題堪能、まあ泥酔してもしょうがないが。機内食はそんなものだろうという水準。行きも帰りも茶そばが出たのにはちょっと困った。嫌いじゃないので、なおさら。
隣に座った夫婦が兎に角ツアーのヴェテランだった。好奇心さえあればツアーも結構面白いということ。シベリア上空からの景観が素晴らしく、そこから話がはじまって結局フランクフルトにつくまで話しっぱなし。

 ツンドラ

まる一日、日が暮れないというとんでもない経験をしつつ、おかげで海外旅行における細かい注意を改めて拝聴。偽警官によるスリの話は思わず笑ったが、まさかウィーンで本当に遭遇するとは……。
到着時のフランクフルト上空。実際に見る欧州の町並みはやっぱり感動。古いベデカーのマップの色遣い(グリーンと茶色)の意味がよく分かる。

フランクフルトでの心配だった乗り換えも遠かったけれど順調。とにかく暑い。
ウィーン便はDC300。小さいけど座席は楽。アテンダントの諸嬢もフランクフルト便と違いリラックス気味。
おやつにハムかチーズのサンドイッチ。飲み物はアルコールあり。
ドイツ南部・オーストリアの上空、雲が切れて鳥瞰図の大盤振る舞い。
オーストリアアルプスらしい山並みも湖も見えて最高。シベリア上空とちがって高空からも人の気配があってやっぱり楽しい。
ドナウの流れが見えてきて実感する今回の目的地。上空からの景色、町のたたずまいが美しい。
ウィーン空港もこぢんまりしていて気に入った。

例によって、うろ覚えの現地コンダクターとの待ち合わせ場所を、EXITの表示を頼りにたどり着いたら、迷子にならなかったと褒められた。ちょっと自慢。
運転の現地の人が荷物を車まで運んでくれて、安心。市街に入ってからの街の風景に呆気にとられる、街中が重要文化財なんだから。道路標示にPRAHAやLINZがあって大騒ぎ。

 これはホテルではない

小さいが、雰囲気のある所謂ぶってないホテルだった。部屋も広く、バスルームもボディーシャンプー完備。
説明が終わってコンダクターの方が歸るので一緒に表に出る。

近所を一回りするつもりだったが、結局教えられたスーパー・マーケットで、ビール500ml×4、トマト10個、黒パン一斤、ソーセージ1袋を買って部屋へ戻ってしまった。まさかその献立がそれから毎夜の食事になるとは思わなかったが。

部屋に入ってTVをつけたらSAT1というチャンネルで「クイズミリオネア」のドイツ版をやっていて、あの「タメ」までそっくりなので思わず見てしまった。その後の2時間ものっぽいミステリもきっと言葉が分かれば面白かろうと思っているうちに爆睡。


6/11

ウィーン初日。
時差ぼけも何にもなく、朝5時起床。TVのスィッチを入れるところまで全く日常。流れてくる言葉の洪水が異国言葉なので若干退屈だが退屈なのは東京でも同じ。
目的である「パルミジャニーノ展」には10時まで時間がある。観光地図をぼんやり眺めているうちに、7時過ぎ。
窓の外から食器のあたる音や人声がするので食事に下へ。フロントに挨拶、とりあえず英語で。

朝食はヴァイキングでパン、チーズ、ソーセージ、ドリンクその他各種食べ放題。別にコーヒーか紅茶をサーバーで。感じのいいいかにも独墺系のガッチリしたおばさまがサーブしてくれる。
野菜としてはキューリ、トマトが供されるが、ヨーロッパに行った方ならご存じの直径が5センチを超す巨大キューリ。私は大昔見たあるヨーロッパ映画で全く別な使い方を見ていたのでちょっと辟易したが、食べると味が濃くて実においしい。トマトは昨晩食べたのでおいしいのは分かってるがパス。
食べ終わったらもうすることが無く表に出ることにする。夕方はまた出掛けることにして4時頃いったん帰ろうと思う。

短いダラダラ坂をゆっくり登っていくと、ほとんど廃墟の建物があったりするが、夕方枕を干してたりしてたから人は住んでいるのだな。
坂を上がりきると近代ゼツェッション風のビルがバス停の脇にあった。プラザ・ヒルトンという大ホテル。



角を曲がるとギリシャ風のファサードの大きな建物。証券取引所。ビョルゼと読むのか、そこが直近の停留所。
ここら辺の様式をを日本の初期建築家は下敷きになどと真面目なことを考えていると、来る市電が全て反対方向へ行ってしまう。
ウィーンは右側通行なのだった(なれるまで2日かかった)。
反対側に戻って来た電車に乗る。カードを打刻するのだが妙に変。裏表反対に入れていた。

通勤時間なんだろうが、電車はギュウギュウという感じではない。のんびり“リンク”をほぼ半周してオペラの駅で降りる。東京なら東銀座「歌舞伎座前」、そんな感じかな。
どの店も開いているわけではないのでとりあえずふらふら露地から露地へうろつく。

 リンクを走る馬車

大回りしていつの間にか今日のもう一つの目的地 KUNST FORUM のある地区まで来てしまったので、U-ターンしたら、そこが Freyung Passage だった。
感じから云うと日比谷の「三信ビル」。
ゆっくりとした空間に「骨董屋」を含む小さなお店が何軒も入って、真ん中に噴水と彫像が置かれた中庭。そこを中心に六方に抜け道がある、これは日本の露地とはまった違う、だけど、その親密さはそれに近いものがあるようだ。
そう、立て直す前の「丸ビル」の一階がここよりずっと大きかったがそんな感じだったっけ。



 

 
freyung passage各景

そこで思わぬ時間を取ってしまい、ちょっとあわただしく美術史博物館の方へ戻る。大慌てで通っているところが何かも知らずに通りすぎてから、そこが「王宮 HofBurg」だったことに気づく。
いくら公開しているとはいえ、この無防備さはなんだ。ただの路地じゃないか。
リンクを渡ってマリア・テレジア像にご対面。館の前にはすでに何十人か待ち人が。
入場券は感熱紙のレシート。
おぅ、これは。と、ある意味感動していたら、入口でそのレシートに手で切れ目を入れて入館OK、それでいいのかよ。

美術史博物館



「長い首の聖母」が入って無くてちょっと残念だった「パルミジャニーノ展」をクタクタになって外に出る。
といっても反対側にヴァン・ダイクの大部屋もあるし、特別展とは云っても出入り自由なのだが、続けて通常陳列に入る元氣はもう無い。

2階中央部をしめる大きな空間が「カフェ・ゲルストナー」取り敢えず絵のない空間で一休み。コーヒーが3、4ユーロ500円弱それでゆっくり中央部の吹き抜けの空間と天井のドームを味わうことが出来る。
心を落ち着けて再出発。
以下美術館内展示に関する内容は省略。
「絵にも描けない美しさ」の、先人の言葉通り今は沈黙。興奮状態のまま退館。
30度を超す炎天下ほとんど写真を撮る気も薄れつつ、リンクを渡って王宮へ。

 Hofburg

ガイドブックを見ないまま見当で入口を二度ほど間違えながら宝物館を探す。とちょうど王宮礼拝 堂からツアーの一団が登場して、宝物殿のチケット売り場を占拠する。
まぁ、秘宝館なら伊豆の下田にもあるしということで、頼まれものの絵葉書が買えたのでそこはパス。

腹は減っているものの混雑のカフェで食事を頼む勇気もなく、うろうろするうちに KUNST FORUM の前あたりに出た。
ちょうどアイスクリームの店が目に入ったのでやっとありつけた日陰に入る。幸いあったメニューを指で差すと分かったようなので宜しくという。
いざ品物が届いてビックリ、特大のチョコレートサンデーバナナ入り。

東京では絶対食べない代物をスプーンがみつからぬままいっぱい付いてるウエハースでアイスクリームと格闘するが、底に沈むバナナはどうするか。辺りを見回すと後から注文した路上のオープンスペースの親父が、ウェイターがスプーンを持っていった形跡はないのにちゃんと食べてるじゃーな いか。
こっそり容器の向こう側を手探りするとあったよ。スプーンが。
素知らぬ顔で取り上げてバナナ一本丸ごとを食べ終わり、そしらぬ顔をして表に出たがウィーンの日の光の何と眩しいことか。その ボリュームと緊張でその日の昼はそれでおしまい。

古本屋を見つけたが入る元氣が無く取り敢えず素通りして、本日二つ目のターゲット KUNST FORUM の「未来派展」。
点数が多く、大きな作品も多かったので、自分としては期待以上の展覧会だった。
後は歩きでホテルまで。



 
大回りして帰る途中で発見したwipplinger陸橋

途中のスーパーで昨日うまかった缶ビール(銘柄は忘れた)をまた三本買って帰った。
今日は表に出ようと思っていても、結局疲れてホテルに帰るともう立ち上がれない状態。

その2(6/12)

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